書店員さんの仕事は、本と人をつなぐこと
書店員さんの仕事は、本を並べることではなく、本と人をつなぐことだと言われます。棚のどこに置くか、平台に出すか、帯に何を書くか。その積み重ねが「誰かが読みたい一冊」との出会いを作っています。今回、東京の三つの書店で、今いちばん勧めたい一冊を聞いてきました。同じ本でも、店によって答えが違うのが面白いところです。
三省堂書店神保町本店の店員さんに聞く
三省堂書店神保町本店で、文芸担当の店員さんが挙げてくれたのは、武田百合子の『富士日記』でした。日常を細やかに切り取る文章は、何度読み返しても飽きない。最近は若い読者が増えているそうです。「まずは文庫の一冊から。読後感の重さが違います」とのこと。神保町らしい、静かで確かな推薦でした。
本屋B&Bの店員さんに聞く
下北沢の本屋B&Bの店員さんは、町田そのこの『52ヘルツのクジラたち』をすすめます。家族の問題を抱える人たちの声を、静かに、しかし力強く描いた作品。「読んだ人の何人かは、涙をこらえてレジに来ます」と話してくれました。ビールのジョッキを拭きながら話すその口調に、本を手渡す仕事の手応えが感じられました。
古書ビビビの店主さんに聞く
古書ビビビの店主さんは、内田百閒の『阿房列車』を挙げました。汽車に乗って、ただ移動を楽しむだけのエッセイ。古書で手に入る版も多く、装丁の好みで選べるのが古本屋ならではの楽しみだそうです。「何も起きない話が、いちばん贅沢なんですよ」。深夜の古本屋で聞くこの一言は、妙に説得力がありました。
「売れている」と「勧めたい」のあいだ
三軒に共通していたのは、「売れている」と「勧めたい」は必ずしも一致しないという言葉でした。書店員さんは、売れる本を平置きにしつつ、小さな一冊もきちんと棚に残す。その両立が、書店の品格を作っている気がします。ベストセラーの陰でひっそり売れ続ける本は、書店員さんの「推し」が支えているのかもしれません。
あなたの一冊の見つけ方
最後に、一冊の見つけ方を教えてもらいました。表紙に惹かれたら、帯を読む。あとがきを開いて、書き手の人柄を確かめる。そして、どうしても迷ったら書店員さんに声をかける。迷いを隠さずに聞くことが、いちばんの近道です。「何を読めばいいか分からない」という言葉は、書店員さんにとって最高の合図。あなたの「今の一冊」は、きっとすぐそこにあります。