初めての買い物の記憶

初めて本屋で本を買った日のことを、よく覚えています。小学校の帰り道、町の小さな書店に、友達と二人で入りました。店内の匂い、平台の高さ、店のおばさんの声。本を買うことが、大人の入り口に思えたのを覚えています。

あの日の本屋は、もうありません。でも、買った本は覚えています。表紙の色、ページの匂い、読み終えた日のこと。本屋の記憶は、本と一緒に残ります。

町の書店、子どものころの店

そのころの町の書店は、文房具も雑誌も売る店でした。私は児童書の棚の前で、どれを買うか、長い時間迷いました。そして、冒険の物語の文庫を選びました。値段は五百円ほど。こづかいの半分をはたいて、一冊の本を買いました。

町の書店は、学校の帰り道の途中にありました。ランドセルのまま入れる店で、店の人も、子どもが来るのに慣れていました。それが、私の最初の本屋でした。

はじめての一冊、あの日の棚

買った本は、その日のうちに半分以上読みました。初めて自分の金で買った本は、特別な本でした。ページを開くたびに、買い物の記憶がよみがえります。本は、そのときの自分の時間ごと、棚にしまわれています。

あの本の表紙は、今でも目を閉じると浮かびます。冒険の始まりを予感させる、空の色の表紙でした。その一冊が、私の読書の出発点です。

帰り道の文庫

帰り道、本屋の紙袋をぶら下げて歩いたこと。友達と本の話をしながら帰ったこと。今思えば、あの帰り道が、私の読書の始まりでした。本を買うことは、物語だけでなく、その日も買うことでした。

本を買う、街を覚える

大人になってからも、新しい街へ行くと、まず本屋を探します。本屋は、その街の棚を見せてくれます。初めての街で一冊買うと、その街との距離が近くなります。本を買うことは、街を覚えることでもあります。

いま、初めてに戻る

いま、本屋で一冊を選ぶとき、あの日の迷い方を思い出します。こづかいを握りしめて迷ったように、いまも棚の前で迷う。初めての一冊が、ずっと本を買い続けさせています。

初めての一冊は、今も実家の本棚にあります。表紙は色あせましたが、ページは読めます。ときどき開いて、あの日の自分に戻ります。本屋で手に取った最初の一冊は、これからも私の読書の原点です。