二つの顔、はじまり

池袋駅の西口を出て五分、ジュンク堂書店池袋本店は、本だけで七階まで続く大きな書店です。一方、下北沢の本屋B&Bは、一つのフロアに棚とカウンターが収まる小さな店。どちらも東京を代表する本屋ですが、時間の流れ方がまるで違います。

ジュンク堂池袋本店、棚の広さ

ジュンク堂は、とにかく棚が深い。人文、社会、理工、児童書。それぞれの棚が専門書店のように並び、同じテーマの本を何十冊も見比べられます。探している本が必ずある、という安心感が、大型店の強さです。私は哲学の棚で、ずっと探していた文庫を見つけました。

大型店の棚は、背表紙の並びが美しい。同じ出版社の文庫が色のグラデーションを作り、同じテーマの本が何冊も並びます。目的の本がなくても、棚を歩くだけで読みたい本が見つかります。

大型店の棚、出会いのしくみ

大型店の棚は、出会いのしくみも作っています。平台の新刊、店頭のフェア、帯の一言。多くの人の目に触れる場所に、編集者が選んだ一冊が並びます。大きな店ほど、その「選ぶ力」が目に見える気がします。

本屋B&B、個人店の棚

本屋B&Bの棚は、三千冊ほど。大型店の百分の一にも満たない量ですが、その分、一冊一冊がよく見えます。背表紙だけでは分からない内容が、手書きのポップで伝えられます。店主の視点が棚の隅々まで届くのが、個人店の本屋です。

個人店の棚は、売れ筋だけでは作れません。店主が「この本を届けたい」と思った一冊が、平台に置かれます。大きな店にはない、個人の視点が棚の隅々まで届いています。

個人店の棚、人と本の距離

個人店では、買い物の時間が長くなります。棚の前で知らない人と言葉を交わし、店員さんに「これ、どうですか」と聞く。値段や在庫の話ではなく、本の話ができる。小さな店の棚は、人と本の距離を近くします。

個人店で買うと、その後の付き合いも始まります。「この本、面白かったです」と伝えると、次のおすすめを教えてくれます。本屋が人とつながる場所になるのは、小さな店ならではです。

二つの本屋の、それぞれの役割

大型店と個人店は、どちらが上という話ではありません。深く探すなら大型店、誰かと話しながら選ぶなら個人店。東京には、両方の時間がある。二つの顔があるから、本屋は面白いのだと思います。